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The Royal Ballet - Matthew Ball as Albrecht in Giselle. Photo: Emma Kauldhar

ジゼルと二人のアルブレヒト 

Giselle and Two Albrechts


ロイヤル・バレエ『ジゼル』での、稀に見る波乱と感動。アマンダ・ジェニングズがお伝えします。


『ジゼル』を観に行く人は誰しも舞台の上での深遠なドラマを期待するものだが、舞台裏でも同じように意外な出来事が起こるとは思っていないデイヴィッド・ホールバーグがナタリア・オシポワを相手に、ロイヤル・バレエのゲスト・アーティストとしてデビューする『ジゼル』を、ファンは何ヶ月も前からひたすら、心待ちにしていた。コヴェント・ガーデンのカーテンが上がったとき、満員の観客の期待は頂点に達していた。

ホールバーグは、美しいラインと繊細なパートナリングと演技力、そして完璧なテクニックを備えた典型的なダンスール・ノーブルで、キャリアが危ぶまれるほどの深刻な足の怪我による二年間の休養を経て、昨年秋にアメリカン・バレエ・シアターの舞台に復帰した。外科手術とリハビリのためにオーストラリア・バレエのフィジオを頼って南半球に移住し、苦闘の日々を過ごしたことで彼は一つひとつの役に対するアプローチを洗い直し、アーティストとしての優先順位や目標も変わった。その体験は、昨年刊行された著書『A Body of Work』にも記されている。

ホールバーグとオシポワが組むと、分かちがたく特別な関係が生まれる。二人の絆は今回の『ジゼル』第一幕にも明らかで、美しく熟考された演技から相互作用が生まれ、解釈ももちろん踊りも、細部まで磨き抜かれていた。ホールバーグのノックに応えて家から飛び出してくる瞬間から、オシポワは恋に浮かされた若きジゼルであり、動きの一つひとつが情熱に彩られている。ホールバーグの反応は穏やかで、ただの火遊びのつもりだった恋がそうではなくなり、場面を追うごとに深くなってゆく。二人の鋭敏な人物造形は世界最高級の踊りによって切り立ったものとなり、完璧なプレイスメントで行われるホールバーグの癖のないバットゥリーや表現力豊かな上体は、いわゆるスペシーフツェヴァのソロでのオシポワの危ういバランスと対をなし、また二人ともにみごとな回転技を見せた。

だからこそ、第二幕の開幕前に芸術監督のケヴィン・オヘアが登場し、第一幕の開始早々にホールバーグが怪我をしていたと告げられた際の私達の絶望を想像してみてほしい。彼は降板を余儀なくされたが、幸いなことにバレエ団は自宅にいたマシュー・ボールと連絡が取れ、彼がロイヤル・オペラハウスに駆けつけて第二幕のアルブレヒトを踊った。まだプリンシパルではない若手のボールにとって、世界最高のスター・バレリーナの一人であるオシポワといきなり組むのは、どれほど緊張することだったろう?彼がパニックになっても神経質になっても、また準備不足が露呈したとしても、温かい声援が送られたことだろう。だが彼の舞台は、まるで何週間もオシポワとリハーサルを積み、何度も主演してきたかのようだったのだ。これまでにもボールは演技力に優れたダンサーであり、テクニックも安定していて大役での経験を積んで成長してゆくことが期待されていたのだが、この日は特に、緊張のかけらもない誠実さと役への没入が印象的だった。アントルシャ・シスで全く腕がばたつかないし、リフトでのぐらつきもない。ピルエットも滑らかだ。最低限のメイクとウォームアップを済ませただけというふうには、少しも見えない。プレッシャーをものともしない優雅さのおかげで、このバレエの幕切れにつきもののエモーショナルな感興はより強いものとなり、一度降りた緞帳が再び上がって二人だけで立ち尽くすジゼルとアルブレヒトの姿が現れたとき、観客席からはもちろん、割れんばかりの拍手と歓声が注がれた。オシポワはボールを前に押し出して一人で挨拶させてから温かい笑顔で抱きしめて、彼女自身もまた、彼を高く評価していたことを示した。

バレエ団全体の出来も素晴らしく、繊細な軽さと氷のような敵意を併せ持ったウィリの群舞をはじめ、お手本のような踊りを見せたダンサーも多かった。クレア・カルヴァートのミルタにもみごとな瞬間が何度もあったが、技術的にもっと自信を持って踊れるようになるはずだ。

このような劇的な公演のオーケストラ・ピットには、信頼のおける指揮者がいてほしいものだ。クーン・ケッセルスはロイヤル・バレエの宝ともいうべき存在で、テンポやダンサーの要求に対する繊細な感覚は誰もが見習うべきものだ。

ホールバーグはソーシャル・メディアで、残る公演には予定どおり出演したいと発言している。世界最高峰の二人のダンサーによる、抗いがたい魅力を持ったパートナーシップが再見できることを、期待したい。(訳:長野由紀)