DANCE EUROPE 日本語版


Mariinsky Ballet - Viktoria Tereshkina and Xanderf Parish in Swan Lake.Photo: Emma Kauldhar


Dance Europe 日本語版 

 


マリインスキー・イン・ロンドン

この夏沸きに沸いたロンドン・シーズンのハイライトを、マイク・ディクソンがお伝えします。

 


 『白鳥の湖』の初日の王子役は、ザンダー・パリッシュ。終演後、芸術監督ユーリ・ファテーエフによって(緞帳の向こう側ではあったが)、プリンシパルへの昇格が発表された。ロイヤル・バレエの群舞の一員だった頃にロシアに誘われたパリッシュは、今やサンクト・ペテルブルクの名門のスターとなり、国際的なガラの常連でもある。ジークフリート王子を演じる彼を見た後では、その騒ぎがなんであるのかは十分に察しがついたし、この昇進は、彼こそはイギリスの生んだ最高のダンスール・ノーブルであるという私の持論を裏付けるものでもあった。

 登場場面でのパリッシュのしぐさには威厳と大きさが、歩行には風格があり、手足の先まで貴族的だった。同時に若々しく情熱にあふれ華やかで、舞台で起こることに知的に反応しながら、王族ならではの存在感が損なわれることがない。共演者は、ヴィクトリア・テリョーシキナ。マリインスキーの中でももっとも洗練されたバレリーナであり、そのオデット/オディールは、解釈の深みといいそれを踊りで実現する力といい最高級で、意思の強度を身体がそのまま体現していた。二人は湖畔の場面では身体の詩を描き、黒鳥の場面では火花を散らした。ロットバルト役のアンドレイ・エルマコフは力強く弾力に富む跳躍で男性的な存在感を示し、最後のパリッシュとの対決には真のドラマがあった。道化のヤロスラフ・バイボルディンは若々しさと技術を備えていたが、このバレエ団が輩出してきた他の道化のような、高度な技をそれと感じさせない技量には欠いていた。パ・ド・トロワのナジェージダ・バトーエワは歯切れ良い足さばきと音楽性を見せ、ソフィア・イワーノヴナ=スコブリコワは温かく詩的、フィリップ・スチョーピンは力強くよく伸びたラインを持ち、自信を持って踊っていた。

アレクセイ・ラトマンスキーがロディオン・シチェドリンの音楽に振り付け、2010年にこのバレエ団で初演された『アンナ・カレーニナ』は、ロンドンでも翌2011年に上演されている。繊細で効果的なミカエル・メレビーの衣装とヨルン・メリンのビデオ・グラフィックスが壮麗な宮廷の内部が描き出し、アンナの亡骸が運び出される冒頭から、フラッシュバックの手法で急速に展開していく演出は映画的だ。もっとも、トルストイの原作が短い場面を連ねなることで複雑な筋を詳細に語るのに対し、映画化では、物語は往々にして簡略化されてきたのだが。アンナ役のテリョーシキナは役に同化し、情熱的で忠実で母性的で、愚かなほど向こう見ずで、最後には絶望する。あらゆる感情のニュアンスを理解した、円熟し洗練されたアーティストの「読み」であり、表現力豊かな全身が、どの瞬間にもアンナの混乱を表現した。

 とはいえ、ラトマンスキーがバレエの中心に据えたのは、他ならぬヴロンスキー伯爵である。最初に舞台に登場するのはアンナのこの愛人であり、彼を軸に物語は展開する。パリッシュはここにおいて、演技派ダンサーとしての才能をついにロンドンの観客の前で全開にした。ヴロンスキーを演じる彼は天の啓示を受けたかのようで、第一舞踊手としての表の顔をかなぐり捨て、危険なほどに華麗な誘惑者を、きわめてナルシスティックに演じた。舞踏会場に最初に現れる場面では獲物を狙う虎のように自信にあふれてその場の女性たちを虜にし、アンナが夫の元に戻り自殺を企てる場面では、内なる悪魔に支配される。テリョーシキナと組むとき、感情は抑えようもなく燃え上がる。二人の情熱的なパ・ド・ドゥはどれも、この作品のハイライトだった。

 「コントラスト」と銘打たれたミックス・プログラムは、アルベルト・アロンソ振付『カルメン組曲』、ウェイン・マグレガー振付『インフラ』、プティパの『パキータ』グラン・パから成り、その名にふさわしく多彩だった。 『カルメン組曲』は、冷戦たけなわの1967年にマイヤ・プリセツカヤのために作られた。闘牛場を模した半円形の装置はボリス・メッセレルのデザインで、高い背もたれの椅子が並んでいる。1998年、アロンソは私に、マイヤが最初の舞台リハーサルでこの装置を見た時、「椅子が空いているのはなぜかを訊かれたときのために、答えを用意しておいて」と切羽詰まった口調で囁いた、と話してくれた。はたしてリハーサルが進むうちに、コートを着込んだ大柄な男たちがてんでに平土間に現れ、やがて進行を無視して舞台に上がってきた。そしてまさしく彼に、「なぜ椅子が空いているのか?」と質問してきたのだという。このときアロンソは、いきり立つ彼らを鎮めることができたが、KGBによる強制連行が始まったこの時代、座る人のいない椅子とは行方不明になって二度と戻らない家族の暗示であり、ゆえに、この装置が当局への間接的な批判となりうるものだとは、想像もつかなかったという。もはや時代がかった作品だが、今なお劇的な残り香もある。主役のエカテリーナ・コンダウーロワは美しくセクシーで自信にあふれ、みごとな脚線で舞台を支配した。ドン・ホセのティムール・アスケロフはよい踊りだが、パートナーの影に隠れてしまった。トレロ(エスカミーリョ)は長身のアレクサンドル・セルゲイエフ、華があり、コンダウーロワとも火花を散らした。運命役のエカテリーナ・チェブィキナは彫像のごとき存在感、そしてロマン・ベリャーエフがカルメンの心を射止めようとするもう一人の男であるコレギドールを印象的に演じた。(訳:長野由紀)PHOTO GALLERY


 

金原里奈

イングリッシュ・ナショナル・バレエの新鋭に、ジェラール・デイヴィスがお話を伺いました。 


 

バレリーナになろうと思ったきっかけは? 5歳の時、母が「美しい女性はみんなバレエの経験があるから」といって、京都のあるバレエ・スタジオに連れて行ってくれたんです。私もバレエが気に入って、8歳になる頃には週に4、5回レッスンするほどのめり込んでいました。先生は私がプロになりたがっているのを知って、目をかけてくれました。そのうちコンクールに出場するようになったのですが、そのスタジオは小さくて、出場するのは私一人。レベルの高い教室では、20人以上出ることも珍しくなかったのですが。READ MORE



グランド・オーディションでヴァリエーション審査に進んだ小西聡子  Photo: Emma Kauldhar

グランド・オーディション

ロイヤル・バレエ元プリンシパルのダヴィッド・マハテリが企画した、ダンサーの就職支援のための催し。エマ・コールダーがリポートします。


 

プロとして最初の契約を勝ち取ろうとする時、そして移籍を考える時、ダンサーが受けなくてはならないのがオーディションだ。だがそのほとんどは、一年の最初の2ヶ月ほどに集中している。それらを受けて回るのは交通費もかさむし、なにより精神的な負担が大きい。そうした状況の中、9つものバレエ団の芸術監督が一堂に会してオーディションを行うというのは素晴らしいアイディアであり、ダヴィッド・マハテリが昨年ブリュッセルでこの企画を立ち上げた時の狙いも、まさにその点、つまりダンサーの負担軽減にあった。READ MORE